ヒューマノイド競争、日本は「第三極」になれるか
Can Japan Reclaim Its Place in the Humanoid Robot Race?
ヒューマノイドの主導権は、いま誰の手にあるのか
本記事は IEEE の記事の抄訳です。
揺らぐ「ロボット大国・日本」の遺産
先ごろ東京で開催された「Humanoids Summit」の会場は、日本のロボット産業が置かれた現実を静かに映し出していました。展示された約40台のヒューマノイドのうち、中国製は日本製のおよそ3倍。かつて二足歩行ロボットで世界をリードした日本の姿は、そこにはありませんでした。
2000年代、日本は世界最先端のヒューマノイド技術を誇っていました。しかし、その多くは研究用のデモンストレーションにとどまり、商用化という次の一歩を踏み出せないまま時間が過ぎていきました。技術で先行しながら、市場をつくれなかった。この構図には、どこか既視感があります。
量産と低価格で駆け上がる中国
対照的に、中国は国家主導で若い技術者を大量に投入し、量産化と低価格化を一気に進めています。象徴的なのが、Unitree 社の「G1」。わずか 1 万 6000 ドルという価格は、ヒューマノイドを「研究室の夢」から「調達できる製品」へと変えました。実際、日本企業が自社の実証実験に中国製ロボットを採用するケースも増えつつあります。
日本が立ち止まっている理由のひとつは、規制にあります。二足歩行ロボットに求められる安全基準は厳しく、国内での販売のハードルは高い。そして大企業の多くは、いまなお「使い道を探す」段階から抜け出せていません。技術ではなくスピードで、差が開き始めているのです。
産業用ロボットでも進む地盤沈下
この傾向は、ヒューマノイドに限りません。1990 年代から 2000 年代にかけて世界の頂点にあった産業用ロボットの分野でも、日本の存在感は薄れつつあります。2024 年のロボット密度(従業員 1 万人あたりの稼働台数)は、韓国が 1220 台で首位に立つ一方、日本は 446 台。稼働台数そのものでは、中国が約 200 万台で世界最大となっています。
再起の鍵は「ソフトウェア」と「協調」
では、日本が再び存在感を取り戻す道はどこにあるのか。McKinsey や早稲田大学の研究者は、いくつかの方向性を示しています。
ひとつは、AI・ソフトウェア・データ基盤の強化です。ハードウェアの精度で競う時代から、それを動かす知能とデータで競う時代へと、勝負の軸が移りつつあります。そのためには、企業が単独で技術を抱え込むのではなく、データを共有し合う「協調領域」を築くこと、そして国際連携によって大規模なデータと計算資源を確保することが欠かせません。
その先に見据えるのが、汎用ロボット(General-Purpose Robots)市場への本格参入です。その規模は、推定で 1000 億ドルにのぼるとされています。
「モバイルインターネットの教訓」を繰り返さないために
日本はかつて、世界で初めてモバイルインターネットを生み出しました。しかし、スマートフォン産業の主役の座を握ることはできませんでした。優れた技術をいち早く生み出しながら、それを世界標準へと育てられなかった。この教訓を、ヒューマノイドで繰り返すわけにはいきません。
いま求められているのは、規制緩和と、用途の多様化と、そして何より商用化への踏み込みです。ヒューマノイドは、日本のものづくり文化を映す象徴でもあります。だからこそ、私たちが持つ「日本らしいクラフトマンシップと信頼性」を武器に、もう一度、世界の中で確かな存在感を示していく。その挑戦は、まだ終わっていないはずです。
